開いて花、閉じて竹。そのたたずまいは、まるで光と影のあいだに咲く花のよう。和傘は、日差しや雨を避けるためだけの道具ではない。それは、日本文化の舞台を形づくる「影の主役」である。

開いた瞬間、和紙の色がふりそそぎ、閉じれば、凛とした竹の線があらわれる。上から見れば、光を抱く花。下から見上げれば、万華鏡のような影の世界。糸かがりの幾何学模様が、光を透かしながら静かに揺れる。この「光と影のあわい」こそが、日本人の美意識の象徴だ。舞台の上でも、神社の参道でも、茶会の庭でも、和傘は“空間を整える影”として存在してきた。

岐阜は日本一の和傘の産地であり、かつては年間1,500万本もの和傘が生まれていた。長良川が運ぶ美濃和紙、竹、えごま油――その自然の恵みが、この地に和傘文化を根づかせた。傘の骨組みは、まっすぐな竹を均等に割ってつくる。閉じたとき、再び一本の竹のように戻るよう、節をそろえ、等間隔に広がるように組まれる。その精緻な構造美は、数百年の職人の知恵と手の記憶によって生まれる。

一本の岐阜和傘を仕上げるには、およそ二ヶ月。工程は百を超える。骨を組み、ろくろを挽き、和紙を張り、油を引き、漆で仕上げ、糸をかがる。その一つひとつが、体の感覚で覚える世界だ。和紙の湿り具合、力の抜き方、油の温度、漆の呼吸。マニュアルにはできない。手の中の記憶が、美を生み出している。

しかしいま、岐阜和傘の職人は激減している。このままでは、数年で姿を消してしまうかもしれないとも言われている。舞台の上で、茶会で、神社の参道で――日本文化を支えてきた本物の和傘が失われれば、その“深み”までもが薄れてしまうだろう。それでも、和傘の灯を消したくない。この文化を、なんとか未来へつなごうとする人たちがいる。私たちは、もう一度この美しさを見つめ直し、静かに、未来へと手渡したい。岐阜和傘 ― 時を超えて、人と光を結ぶ。

和傘は光をさえぎるのではなく、光を整える。その影は、祈りと静けさのかたち。日本の美は、ここに宿る。