炎と水の共鳴
千古の昔に続く、幽玄の光景
闇のなかで、かがり火が水面を照らす。
舟が滑るように現れ、火の帯が川に金の道を描く。
その向こうには、戦国の三英傑の一人・織田信長が天下統一の拠点とした岐阜城が、金華山の頂に静かに輝いている。
千年以上の時を経て、今も変わらぬ“祈りの夜”。
そもそも鵜飼とは
鵜匠が鵜を操り、川魚をとる日本古来の漁法である。
長良川の鵜飼は鮎を狙う。
鮎は清流にしか生息せず、
鵜飼の漁法はその鮎を傷つけずに、最も美しい状態で捕らえる方法とされる。
鵜匠は代々受け継がれた技と呼吸で鵜を導き、
火と水と命が交わる一瞬を見極める。
その所作には、自然と共に生きてきた日本人の感性が息づいている。
鵜と人 ― ともに暮らす関係
鵜匠の家では、鵜は共に暮らす家族のような存在だ。
漁のない季節も世話を怠らず、声をかけ、体調を見守る。
その信頼関係の深さは、
野生の鵜が5〜10年ほどの命を終えるのに対し、
鵜匠のもとで暮らす鵜が15〜20年生きることもある、という事実にも表れている。
鵜飼は、自然と共に働き、生きる人間の知恵と優しさの象徴でもある。
鵜飼の流れ
夜が更けると、かがり火が灯り、鵜舟が静かに川を下る。
鵜が水中へと潜り、鵜匠の手縄がかすかに動く。
観覧船が併走し、火と水のリズムに包まれる。
やがて、六艘の舟が横一線に並び、炎がひとつの大きな光の帯となる――総がらみ。
幻想的なその光景は、まるで時間が止まったようだ。
鵜飼の楽しみ方はいろいろ
“見る”という贅沢
かがり火のゆらぎと水音を感じながら、
ただ静かにその瞬間を見つめる。
舟の上でも、川岸でも、宿の窓辺でも。
それぞれの距離で、光と闇の物語を味わうことができる。
“船遊び”という雅な体験
もう一歩深く味わいたい人へ。
笛や太鼓に送られて出船し、川原に舟をとめる。
料理と酒を楽しみ、芸舞妓の舞が夜を彩る。
やがて川が静まり、合図とともに鵜飼が始まる。
火と水と音がひとつに溶け合う――。
それが、岐阜ならではの「船遊び」の美学だ。
御料鵜飼という格式
長良川の鵜飼は、日本で唯一、宮内庁式部職の鵜匠によって行われている。
世襲の家に生まれた鵜匠たちは、
シーズン中に八度行われる「御料鵜飼」で、
その夜に獲れた鮎を皇居へ献上する。
この川の鵜飼は、ただの漁ではない。
それは日本の伝統と美意識の象徴であり、
人と自然の調和を映す一枚の絵巻のようでもある。
Zenxury Essence|五感の余韻
炎と水が呼吸を合わせるとき、心は澄む。
鵜と人が共に生きる姿は、
自然と調和することの尊さを教えてくれる。
美は、静けさのなかに宿る。
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